低騒音舗装−世界的に見たその技術革新(8)


 ウルフ サンドベルグ(スウェーデン道路研究所)
By Dr Ulf Sandberg
Swedish National Road and Transport Research Institute (VTI)
Linkoping, Sweden
E-mail: ulf.sandberg@vti.se
(訳:編集委員 藤田 仁(日本道路株式会社))


  13. 大きなネガティブテクスチャ路面
ポーラスな路面のテクスチャ(キメ)を測定したならば、それがかなり大きいことに気づくであろう。たとえばスウェーデンのDPACをISO 13473-1により測定したならば平均キメ深さ(MPD)は1、8mmである。ポーラスでないSMA11のMPDはおよそ0.9mmでありポーラスアスファルトの半分である。大きなテクスチャの路面はタイヤを振動させそうであるが、ポーラスアスファルトはより静かである。もちろん吸音やエアポンピング音の減少という面もあるが、テクスチャが上向きでなく舗装中の下に向かっていることが大きな要因であり、そのためタイヤトレッドがテクスチャを閉じ込めることができなくなるのである。テクスチャはその形状を曲線で表現でき、それが下向きのものをネガティブと呼び、上向きなものをポジティブと呼ぶ。ポーラスな路面は代表的なネガティブなテクスチャを持つ路面である。同じことが薄層舗装にも言える。
2011年に本文でも触れた供用後1年のDPACにおいて走行車線の右側走行位置について表面を研磨機によって延長65m、幅0.9mを研磨した。表面の1-2mmが研磨され、初期の路面に比べ、よりフラットなネガティブテクスチャ路面が得られた。図―13は本手法により得られた形状曲線 を示し、図―14に研磨前後の路面の写真を示す。
 
 

                 
                                                図ー13: 表面研磨による形状曲線の変化(赤:研磨前、青:研磨後)

                   

                                             図ー14: 研磨前(左)、研磨後(右)の写真。コインの直径は25mm。
  研磨した路面はタイヤ/路面の接触の際に、より滑らかな路面となり結果的にタイヤの振動を減ずる。CPX法による2種の比較タイヤを用いた騒音測定結果では1-3dBの騒音低減が見られた(図―15参照)。比較路面のSMA16に比べれば70-90km/hで9dBの騒音低減となっている。   

                             
                            図ー15: 研磨前(赤)と研磨後(緑)および比較路面SMA16(黒)の1/3オクターブバンド周波数スペクトルの比較。
                                      2種のタイヤでの測定の平均(速度70および90km/h)
  さらに研磨路面は転がり抵抗が4-7%低下した。これにより騒音および転がり抵抗の両面からタイヤが路面を転がる際に滑らかな路面がいかに重要かが示唆された。タイヤ/路面の接触において、その変位は小さいほど良く、空気が排出されるためには十分なスペースが必要であることも分かった。
これらのことから、研磨法はすでに騒音低減の効果がある舗装の騒音をさらに低減せる方法として提案される。同じ効果がSMAでも期待できるがまだ試験は行っていない。騒音低減に限らず、転がり抵抗の減少もまた研磨に要するコストをカバーできる利点である。
だが、1年後の試験では ( 2012年) 、研磨の効果は消えてしまった。目視でも研磨跡は認められない。これは冬季にスタッドタイヤの走行に曝されたためと考えられ、スタッドタイヤの走行がなければ、効果はもっと持続したと思われる。

14. 路面の種類分けとクラス分け
14.1 国家的な種類分け
 
英国、デンマークそしてオランダでは騒音特性も含めた路面の種類分けの計画がある。
オランダは各種路面の騒音低減値を種類分け(ラベル付け)し、道路工事の騒音レベルの仕様に利用しようとしている。この方法はΔroad 手法、英語ではCroad と呼ばれ、その値は Cwegdek と呼ばれる。ある種の路面の Cwegdek 値を得るためには試験区間におけるSPB法による測定が必要である。 得られた値はオランダの数多くの比較路面(DAC16)の値と比較し、騒音レベルの差が Cwegdek.となる。2012年7月17日に54の試験路面(比較路面、低騒音路面が含まれる)のリストが出された[Stillerverkeer, 2012]。
英国の計画はHAPAS (for Highway Authorities Products Approval Scheme)と呼ばれ 、 British Board of Agreement (BBA) によって運営されている。これは1995年に道路および関連分野の革新的な製品、材料、システムについて国家的な承認を確立させようと設立されたものである。これにより、個々の機関が独自に評価、試験を行う必要がなくなった。HAPASに関するBBAの承認プロセスではSPB法による騒音試験を含む室内試験、現場の調査、材料の製造に関わる評価などが含まれている。データが許容されればHAPAS証明書が発行される[HAPAS、2008]。本文執筆時点では67種の薄層舗装が承認されている
(http://www.bbacerts.co.uk/certificates.aspx?ca=Thin+Surface&ct=HAPAS&ob=0&pg=1&).
デンマークではSRSと呼ばれるシステムがある。これは騒音特性の試験である[Kragh, 2007]。測定はCPX法により行われる。

14.2 ヨーロッパレベルでのクラス分け
欧州基準のグループであるCEN/TC 227/WG 5は欧州基準の路面特性に関するワーキンググループであるが、そこでは路面の騒音のクラス分けを行っている。この作業は始まったばかりで2013年に最初のレポート案が出される予定である。

15. まとめ
本文は低騒音舗装の改良や新しいより優れた低騒音舗装の開発について現在の国際的な状況をまとめたものである。多くの場合に共通することは、騒音低減は決して無料ではできないということである。通常の舗装に比べ、低騒音舗装は極端に高コストとなる場合があり多くの先進的な薄層舗装もまた高価である。Nanosoftタイプの4mm骨材による路面は、通常の舗装に比べて高価である。スウェーデンの気象条件におけるDPACは通常使用されるSMA16に比べてライフサイクルで見れば6倍高価である。この原因は材料や施工、維持費用の高さもあるが、寿命が短いことも要因である。そのような舗装もオランダでは一般的に使用されている。それは低騒音舗装により人々がより道路の近くで暮らせるようになるからである。スウェーデンでは司法が道路管理者に低騒音舗装を使用するように命じたことが採用の理由である。
いくつかのヨーロッパの国、たとえばスウェーデン、デンマークでは騒音に曝されることによる健康関連の影響も含めたコストを道路を建設する際に計算し、考慮されている。騒音の低減をコストとして受け止めることがスタートである
一般的に低騒音舗装の近くで生活している人々の反応は極めて肯定的である。また路面を走行する運転者や同乗者もまた良い感触をもっている。しかし、道路管理者にとっては社会へのサービスのための超過資金調達する方法を見つけねばならないという問題を抱えているというのが現状であろう。
 
 


                                                                                

      

 

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